ジャガイモの複雑なゲノムを読み解く最新研究

今回は、最近報告されたジャガイモのゲノムを例に、どのような工夫をこらしてゲノム解読が行われたのか紹介します。

 

人類は植物からさまざまな恩恵を受けています。食料や飼料として利用される以外にも、薬品、繊維、建築、燃料製造の材料など幅広い用途に使われているのは、皆さんもよくご存知のことと思います。

 

農業が本格的に始まる以前から、人類は知恵を絞って利用可能な植物を探し出し、栽培し、さらにその中から優れた性質を持つものを選び出してきたと考えられています。最近の研究によると、人の手によって選択を繰り返された栽培品種のゲノムには、野生の祖先種と較べると相当大きな変化が起きていることがわかってきました。遺伝子の増減やゲノムの組み合わせが変化している例がいくつも知られています。栽培種が、その元となった祖先種とは大きく違う姿をしていることも珍しくありません。

 

 

「イモ類」に属するジャガイモ

ジャガイモは、食品の世界ではサツマイモなどと共に「イモ類」の中にまとめられていますが、南アメリカ大陸原産のナス科に属する植物です。この仲間には、ナス、トマト、トウガラシなど食用にするもののほか、ペチュニア、ホオズキ、タバコ、ベラドンナなどが含まれていますが、ジャガイモだけが地下茎を肥大させイモを作ります。

 

ジャガイモは、もともと寒冷なアンデス地方を原産地とするため、最初に移植されたヨーロッパでは一種の救荒作物としての普及が進みました。

 

しかし、ヨーロッパに導入された際に少数のイモから栽培化が出発したために遺伝的多様性が小さく、いったん病気が蔓延すると壊滅的な打撃を受けてしまうこともあったようです。19世紀には、カビの一種によるジャガイモの病気が蔓延したアイルランドで飢饉がおこり、アイルランドからの大量の移民を生じさせた原因の一つとなったそうです。

 

今やジャガイモは世界の重要作物の一つで、2008年の世界統計によると、その生産量はサトウキビ、トウモロコシ、コメ、コムギに次ぐ多さです。ジャガイモゲノムの解読に当たっては、イモの生産と耐病性に特に着目した解析が行われていますが、そのあたりに理由の一つがありそうです。

 

 

ジャガイモのゲノム研究

ジャガイモの栽培には、種子ではなく適当な大きさに切った種イモが使われます。ジャガイモは有性生殖もできるのですが、栄養生殖を行うことにより、品種としての特徴を安定に保つことができますし、受粉の心配をすることなく栽培を行うことが可能です。

 

しかし、このような栽培方法はゲノム解読のためには不利に働きます。現存栽培種の多くのジャガイモが4倍体で、倍化したゲノム間に変異が蓄積していたため、ゲノム解読は相当に難航したようです。Nature誌に掲載されたジャガイモゲノム論文では、これまでに蓄積された遺伝学的知識を参照しながら、次世代型ゲノム解読装置(これについては今後紹介します)による大量のゲノムデータを高性能コンピュータで解析して精度を高めました。

 

さらに、4倍体ゲノムによる複雑さの影響を避けるために、特別な方法で半数体細胞のゲノムを倍化させた倍化半数体細胞(つまり相同なゲノムを持つ細胞)からできたジャガイモと、育種用の2倍体細胞からできたジャガイモの両者のゲノムを比較するなど、工夫を凝らしてあります。図に示したように、半数体細胞由来のジャガイモの地下茎はイモらしく見えないのに対し、育種用の2倍体細胞から得たジャガイモは、普通の栽培種のように見えます。

 

ジャガイモのゲノム解析

 

 

ゲノム解析の結果

ゲノムを解読した結果、ジャガイモのイモの部分ではデンプン合成に関わる遺伝子群の発現が増加し、逆にデンプン分解系の遺伝子群の発現は低下しているという、もっともらしい結果が得られています。また、植物は簡単には移動できないので、病虫害への備えを持つことも重要です。

 

ジャガイモのゲノムには、400を超える病虫害耐性に関係する遺伝子が見つかりましたが、その多くは広く植物に見られるものでした。これに対し、病原体の側も耐性に対する耐性(耐耐性)を獲得することが知られています。

 

耐性と耐耐性のいたちごっこのようですが、4倍体ジャガイモのゲノム中には耐性遺伝子の変異型が何千コピーも見つかりました。、変異した病原体に対応するため予備の遺伝子をゲノム中に保持することで、病原体に対する耐性を高めるのに一役買っているのかもしれません。

 

 

参考文献

Genome sequence and analysis of the tuber crop potato. Nature 475, 189-197 (2011)
FAO統計 Countries by commodity(作物の国別ランキング)から、Potatoes(ジャガイモ)を選択。(日本のジャガイモ生産量は2008年時点で世界の20位、2,743,000トン)
・ジャガイモ博物館内の項目からの検索(ジャガイモ博物館)
・作物育種グループ 馬鈴しょ(北見農業試験場)
じゃがいもMiNi白書(日本いも類研究会)
じゃがいもについて(カルビー株式会社)

 

 

執筆

藤山秋佐夫(国立情報学研究所・国立遺伝学研究所)

 

 

写真提供

サムネイル、図1:野村多美氏

 

編集・作図

隈啓一・薦田多恵子(国立情報学研究所)