モネラ界とは?進化生物学の観点から解説

モネラ界にはすべての原核生物が含まれますが、現在では2つに分けた、古細菌と真正細菌という分類群を使用することが一般的です。まずはこれら2つの分類群の発見について触れた後、それぞれについてのお話をしたいと思います。

 

 

ウースらの研究

1977年にウースらは、細菌からとりだして断片化した16SリボソームRNAの比較から、原核生物は、大腸菌のように普通の環境に住むグループと、非常に強い酸性や高い塩濃度条件下、あるいは超高温という特殊な環境に住むグループに大きく分かれることを見出しました。

 

後者の住む環境は、原始的な地球の環境に類似しているように思われ、だとすればそこに住む原核生物は非常に古い起源をもつのではないかという考えから、彼らは後者のグループを古細菌と呼ぶことにしました。なお、前者のグループは真正細菌と呼ばれることになりました。

 

真核生物・古細菌・真正細菌の模式的な系統樹

 

 

古細菌には真核生物や真正細菌とは大きく異なる性質がいくつかあります。たとえば、真核生物や真正細菌の細胞膜は、脂肪酸がグリセロールにエステル結合した極性脂質(エステル型脂質)でできていますが、古細菌の細胞膜は炭化水素がグリセロールにエーテル結合したエーテル型脂質からできています。けれども、一方では生物の根本ともいえる遺伝情報の複製をになうDNAポリメラーゼや、転写をおこなうRNAポリメラーゼ、それにタンパク質の翻訳に使用される遺伝子群などは、古細菌はむしろ真核生物に似ていたのです。古細菌は本当に最古に枝分かれした生物なのでしょうか?

 

1989年にこの問題は、筆者が参加した研究グループなどが発表した「複合系統樹」によって一応の解決をみました。その結果、古細菌はむしろ真核生物と近縁であり、もっとも古く枝分かれした生物は真正細菌であることが明らかになりました。ただし、この結果については、はいまだに議論が続いており、それについては、真正細菌の項の最後で改めて触れます。

 

 

古細菌

古細菌には真核生物や真正細菌とは大きく異なる性質がいくつかあります。たとえば、真核生物や真正細菌の細胞膜は、脂肪酸がグリセロールにエステル結合した極性脂質(エステル型脂質)でできていますが、古細菌の細胞膜は炭化水素がグリセロールにエーテル結合したエーテル型脂質からできています。けれども、一方では生物の根本ともいえる遺伝情報の複製をになうDNAポリメラーゼや、転写をおこなうRNAポリメラーゼ、それにタンパク質の翻訳に使用される遺伝子群などは、古細菌はむしろ真核生物に似ていたのです。古細菌は本当に最古に枝分かれした生物なのでしょうか?

 

1989年にこの問題は、筆者が参加した研究グループなどが発表した「複合系統樹」によって一応の解決をみました。その結果、古細菌はむしろ真核生物と近縁であり、もっとも古く枝分かれした生物は真正細菌であることが明らかになりました。ただし、この結果については、はいまだに議論が続いており、それについては、真正細菌の項の最後で改めて触れます。

 

古細菌には病原性がなく、寄生性の種もほとんど存在しないという特徴があります。古細菌はいくつかのグループ(門)にわかれますが、まだその分類ははっきりしていません。古くから知られていたクレンアーキオータ門とユーリアーキオータ門以外に、ナノアーキオータ門、コルアーキオータ門などがあるとされ、これら4つの門については、最低でも1種のゲノムが決定しています。それ以外にも新たな門の候補があり、分類については今しばらく論争が続きそうです。

 

三角形の古細菌・腸管出血性大腸菌O-157

 

 

真正細菌

その昔、細菌の分類はグラム染色法によるものでした。形態による分類が難しい細菌にとって、染色される(グラム陽性)か否か(グラム陰性)は非常に有効な分類法だったのです。現在では、より強力で簡便な分類手段として、分子系統樹による分類も積極的に使われるようになりました。これらの方法で整理されてきた、主な門や分類群について簡単に紹介します。

 

グラム陽性菌は大きく2つの門にわかれます。アクチノバクテリア門の細菌は、そのゲノムの塩基配列中にCとGが多く、AとTが少ないという特徴をもちます(高G+C含量細菌)。この仲間には、放線菌・ストレプトマイセスや結核菌・マイコバクテリウムが含まれます。逆に、ファーミキューテス門の細菌は低G+C含量であり、乳酸菌・ラクトバチルスなどが含まれます(マイコプラズマもファーミキューテス門に含めることもあります)。

 

それ以外の細菌は、基本的にはグラム染色に陰性です。シアノバクテリア門は、藍藻(らんそう)類と呼ばれることもあり、この仲間が葉緑体の起源になったとされています。、サーマス=デイノコックス門では、好熱菌サーマス・サーモフィルスと、激烈な放射線に耐えるデイノコックス・ラジオジュランスなどが有名です。最も多くの種のゲノムが決まっているものがプロテオバクテリア門です。これはさらに、α、β、γ、δ、εの5つの綱に分かれます。

 

ミトコンドリアはαプロテオバクテリアに類似の細菌が起源とされています。また、実験材料で有名な大腸菌はγプロテオバクテリアです。スピロヘータ類には、悪名高い梅毒病原因菌スピロヘータ・パリダが、クラミジア類には、結核炎を起こすクラミジア・トラコマチスなどが含まれます。そして、超好熱菌の仲間には、アキフェックスやサーモトガなどが存在します。

 

 

ゲノム全体の検討研究

これらさまざまな真正細菌の系統関係は、最初は16SリボソームRNAの配列で決定されましたが、現在はゲノム全体(2008年10月現在、真正細菌のゲノムは700以上も決定されています)を使用して決定することも可能です。そのような系統関係の研究からわかってきたことを最後に2つお話しします。

 

1つめは、真正細菌のなかでもっとも古く枝分かれしたのは、アキフェックスやサーモトガなどの超好熱菌のようである、ということです。古細菌の方でも古い時期に枝分かれした系統に超好熱菌が多いので、それらのことから類推すれば、現存する生物の共通祖先は、高温条件下で生活していた生物だったのかもしれません。ただし、これにはまだ異論もあり、定説とまではなっていません。

 

2つめは、いろいろな遺伝子で系統樹を推定してみると、しばしば結果が異なるということです。DNA複製、転写、翻訳などで使用される遺伝子(16SリボソームRNAも含まれる)ではほぼ同じような系統樹が得られるのに対し、それ以外の遺伝子ではまったく分類とはかけはなれた系統樹が推定されることがほとんどでした。似たような傾向は、古細菌や真核生物の遺伝子を加えたときにもみられました。DNA複製、転写、翻訳などで使用される遺伝子では古細菌と真核生物の近縁性が示されましたが、それ以外の遺伝子ではそうなることはまれでした。

 

以上の結果は、遺伝子の水平伝達という現象で説明できると考えられています。遺伝子は通常親から子へ受け継がれていきますが(垂直伝達)、細菌などでは、他の生物のDNAを取り込む場合があり、形質転換、形質導入、接合などのメカニズムが知られています(遺伝子の水平伝達)。そのようにして取り込まれた遺伝子で系統樹を推定すると、取り込んだ生物と遺伝子を提供した生物は非常に近縁に見えることになります。

 

なぜ、遺伝子によって水平伝達の起きやすさに差があるかについては、複製、転写、翻訳に関する遺伝子は、あまりに多くのタンパク質や核酸と相互作用するので、他の生物のものと交換すると不都合が生じやすいため水平伝達は起きづらいが、他の遺伝子では頻繁に水平伝達が起きた、あるいは現在も起きている、という説明などがあります。

 

 

 

参考リンク

■「古細菌の生物学」古賀洋介・亀倉正博 編集 東京大学出版会
■「古細菌」古賀洋介 東京大学出版会
■シリーズ進化学2「遺伝子とゲノムの進化」石川統・斎藤成也・佐藤矩行・長谷川眞理子 編集 岩波書店
■Woese CR (1977) PNAS 74, 5088-5090.
■Katoh K et al. (2001) MBE 53, 477-484.
■Gogarten JP et al. (1989) PNAS 86, 6661-6665.
■Iwabe N et al. (1989) PNAS 86, 9355-9359.
■Jain R et al. (1999) PNAS 96, 3801-3806.

 

 

執筆
隈啓一(国立情報学研究所)

 

 

編集
薦田多恵子・小林悟志・藤山秋佐夫(国立情報学研究所)