花粉の出ないスギ「爽春」(そうしゅん)の誕生秘話

2008年の月に、林木育種センターが開発した花粉の出ないスギ「爽春:そうしゅん」が新品種として登録され、全国に挿し木苗として普及させる動きが進んでい ます。しかし、その効果が期待できるのは、スギが成長して開花するのに10~20年かかりますから、まだ先のようです。

 

 

花粉症を誘発する植物の花粉

スギの開花は、生えている場所や年により変動がありますが、おおよそ、2月~4月までの間で、3月中旬頃がピークとなり、花粉症もこの時期に症状が重くなる人が多いようです。

 

日本では、スギ花粉のみを大きく取り上げて報道されていますが、現在、60種以上の植物が花粉症を引き起こすことが知られています(さらに詳しく→花粉症を引き起こす植物)。

 

世界的には、ブタクサ花粉症(北アメリカ)、イネ科花粉症(ヨーロッパ)、カバノキ科花粉症(ス ウェーデン)が有名です。ただし、スギ花粉による花粉症は世界中で日本だけと言われており、国内ではスギによる花粉症患者が最も多いとも言われています。

 

ですから、スギ花粉が無くなれば、多くの人が花粉症から解放されることは予測されますが、それは、多くの症例のうちの一例にすぎないため、花粉症が全く無くなるわけではありません。

 

スギの雄花と花粉

 

 

雄性不稔性のスギ

今回話題となった「爽春」は、雄花を付けますが花粉が成熟できず、花粉散布が起こらない突然変異の個体で、これを雄性不稔性といいます。

 

この品種は、40年前に林業用として、材質の良い品種を開発する目的で、全国から様々な特性のある個体を集め、茨城県内の国有林に植林したものの中から見出されました。同様な雄性不稔性のスギ個体は、青森から鹿児島にいたる各産地の個体に存在し、現在までに112品種が見つかっています。

 

同じ種であっても個体の持つ特性は様々で、生育や病気の強弱、開花等が遅い早いなどの違いがあります。そうした中から、 長い年月を経てモニタリングした結果、林業に最適な個体を見つけては、その個体の枝先を切って(穂木)、苗床で根を生やす(挿し木)が行われてきました(さらに詳しく→挿し木の工程)。「爽春」も、こうした挿し木によってつくられた品種です。

 

一方で、挿し木ではなく、細胞培養から増やす研究も進められていますが、こちらは野外に移して、正常に生育し、材質が林業的に価値のあるものかどうか調査する必要があり、まだまだこれからです。さらに、短期間で確実な品種改良を行うために、遺伝子解析が進んでいますが、遺伝子領域の解読は断片的で、形態変異に関係する領域は一部のみで、現在、解析中です。

 

一般的に樹木はスギを含めゲノム数が大きく、現在の少ない予算枠では、断片的な遺伝子配列の解析や他の樹種の遺伝子情報が集まるのを待ちつつ解析せざるをえないのが現状です。

 

 

林業の現状

さて、「爽春」の全国普及が実現できるかどうかですが、まず、国内の林業を活性化しなければ、難しいと言えます。現在、日本のスギ林の多くは北山杉などの有名なスギの産地を除いて、管理されず放置されているのが現状です。

 

その原因は根が深く、スギの植林は、昭和30年代に国の補助政策により、全国各地で盛んに行われましたが、昭和40年頃から、木材の流通は海外市場が中心となり植林業者が激減しました。そのため、枝打ちなどの管理も行き届かなくなりました。

 

また、昭和50年頃までは、枝打ちした廃材はその現場で焼却処分などを行っていましたが、現在では環境問題の配慮から、枝打ちしたものはすべて産廃場で処理することが指導されており、その処理費の出費が林業者を圧迫しています。

 

植林して40年経過したスギでさえ、伐採して木材にすると管理費や運搬経費等がかさみ赤字になるため、多くのスギ林が枝打ちもできず放置されています。こうした状況の中で、「爽春」をいかに全国に広げるか、行政と民間企業の緊密な連携がなくては難しいところです。また、スギ花粉だけでなく、花粉症に関する多方面にわたる研究開発も必要でしょうから、爽快な日本の春の訪れは今しばらく遠いようです。

 

 

 

引用文献と関連リンク

独立行政法人林木育種センター
■環境省花粉観測システムはなこさん
■朝日新聞(asahi.com) 2008年 3月21日付

 

 

執筆者

小林悟志(国立情報学研究所)

 

編集者

薦田多恵子・隈啓一・ 藤山秋佐夫